カイロまで―日記より―
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ヨーロッパの旅
著:勅使河原蒼風
1900年生まれ。華道草月流の創始者。
1928年、第1回草月流展を開催し、軽快でモダンな花が評判となり、NHKラジオのいけばな講座を担当、この放送や以後の草月展を通じて草月流いけばなが広く知られるようになる。
華道において斬新な手法を多く提供し「花のピカソ」と呼ばれた。
ヨーロッパの旅
パリ
森
わたしがおもに出かけていったパリの森はブーローニュの森で、それからほかにもいけばなに使う枯れ木や根っこを探しにずいぶんいろんな森へ連れていってもらった。
おぼえが悪いし、おぼえようともしないから、なんとかかんとかむずかしい森の名はみんなわすれたが、ひろくて木が多くて古くて立派な感じの森ばかりだった。
木を大切にするからか、土地とよくあっているからか、そろってのんびりした形の大きい木が、日本とちがってちっともほこりっ気のない、そのかわり日本より枝ぶりは単調な木が、みずみずしさで茂りをつらねている。
わたしがパリ市から許可の上で木を探しに行くときついてくるのは、三人のいわゆるキコリさんだが、すこしガタな、自分のらしい自動車でわたしが降りたいというところで止めながらどんどん森の奥ふかくはいって行くのだ。
この大きな森が日曜とか土曜とかいう休みの日には、どこのこかげもいっぱいになるほど人がやって来て、森を利用し森をたのしむのは日本で想像することの出来ないものの一つである。
パリの人は平生、石でつくられた暗い冷たい重い家に暮しているから、ひまがあれば明るいさわやかな外でその反対のことをしなければやりきれないのじゃあなかろうか。
そういうことが生活の中に根づよく植えついているから、なんとなくパリ人にはどこやら落ちついた、そしてほがらかさがある。
話をすることは好きなようで、森の場合でもいたるところに置かれたベンチや椅子に腰かけたり、草の上に坐ったり寝ころんだりして、実によくたのしそうにしゃべくり合っているのだ。