カイロまで―日記より―
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ヨーロッパの旅
著:勅使河原蒼風
1900年生まれ。華道草月流の創始者。
1928年、第1回草月流展を開催し、軽快でモダンな花が評判となり、NHKラジオのいけばな講座を担当、この放送や以後の草月展を通じて草月流いけばなが広く知られるようになる。
華道において斬新な手法を多く提供し「花のピカソ」と呼ばれた。
ヨーロッパの旅
土産話
男娼
石井好子さんとよくいっしょにあちこちと出かけた。
あるときわたしを慰めてあげましょうというので連れていかれたのは、モンマルトルのマダム・アルチュールというキャバレーなのだ。石井好子さんはそういうキャバレーで歌を歌って芸人として暮している人だからいろいろなおもしろい穴を知っているわけで、そこの特徴を一言にして言えば全部男娼なのだ。全部の男が女装して何から何まですっかり女のふりをしているのだ。
日本でいえば女形だからそう思えば何でもないが、ともかく女形のすごいのがたくさんおって、お婆さんでも娘さんでも全部おじいさんとか若い男がやっている。
説明されて行ったからそうかいと思って見れば、なるほど胸毛のそりあとが青々としていたり、少しのどぼとけが出ていたりしているが、うっかりしていればわからない。ステージがあっていろいろ女らしい踊りをやったり歌を歌ったり、可愛らしいことをやってみせる。
おもしろかったことは、そこでいろいろなショーを見たりして、さあ帰ろうというときに、雨の日だったがあずけたレイン・コートを出口で着せてくれたのが本当の女でこれはまた実に可愛かった。表へ出て好子さんに「やっぱり本当の女はいいね」と言うと「アラいやだ、あれも男よ」とやられた。
街角にもこの種の女が随分いる。男か女かほとんどわからない。もちろん本物の女もたくさんいて、オイラン横町と日本人が言っている通りを一ペん通ってみるべしというので、自動車で通ったのだが、両側にずらっとあらゆるスタイルの女達がならんでいる。
ともかく私娼は非常に跋扈していて、わが国の公娼や私娼の問題と同じじゃないかと思ったのだ。