カイロまで―日記より―
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ヨーロッパの旅
著:勅使河原蒼風
1900年生まれ。華道草月流の創始者。
1928年、第1回草月流展を開催し、軽快でモダンな花が評判となり、NHKラジオのいけばな講座を担当、この放送や以後の草月展を通じて草月流いけばなが広く知られるようになる。
華道において斬新な手法を多く提供し「花のピカソ」と呼ばれた。
ヨーロッパの旅
パリ
老タクシー
パリのタクシーはたいてい老運転手で若い人はめったにいない。
それも八十歳以上の人がそうとういるということだからわたしは感心してしまった。
日本ではもっとも骨の折れる職業の一つとしてからだの強い若い人がやることになっているのに、なんというちがいだろうとおもった。
そんなら車が上等で仕事がやさしいのかなどとおもったらまちがいで、とても日本では見ることも出来ない古風な昔の自動車が大部分で、日本では昔、皇室用がこれだったが、赤い四角い腰の高い、どうしても博物館ものというところなのだ。
たいてい老運転手氏は、デブでどっか愛嬌のあるおっさん型で、死ぬまでこうしているのだといった落ちつきを感じさせるのが共通点である。
かならず一割ほどのチップをつけてやるならわしで、別にぺコぺコもしないし、つんけんもしないし、客と運転手といったへだてのようなものがちっともなくて、同格同等のほがらかさがいいとおもった。
ともかく八十代がかなりいるというのだから、七十代六十代はぐっと多いはずで、わたしはたいてい七十から六十ぐらいの人にぶっかっていたようにおもう。
ひるでもク方でも食事どきは実に乗りにくいのが特徴で、どの運転手も自分の家へ食べに帰るから、いいあんばいにその方向が気にいってくれれば乗せるが、気にいらない場合はどうしても乗せないことになっている。
つまりガツガツ無理をして働かないでもいいというわけで、これはタクシーのことばかりでなく、いったいにパリの人達は、立身出世型でもなく、一カク千キン型でもないように見えるのだがどうだろう。