カイロまで―日記より―
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ヨーロッパの旅
著:勅使河原蒼風
1900年生まれ。華道草月流の創始者。
1928年、第1回草月流展を開催し、軽快でモダンな花が評判となり、NHKラジオのいけばな講座を担当、この放送や以後の草月展を通じて草月流いけばなが広く知られるようになる。
華道において斬新な手法を多く提供し「花のピカソ」と呼ばれた。
ヨーロッパの旅
パリ
調和
シャンゼリゼの大通りの店はどれも古風な石のくすんだビルなのだが、その店と店との間に露路があってそれをはいると、その一かくだけまるで近代的な新しいデザインの家が断然ちがった状景を、芝居の舞台面のような形を呈しているのがある。
古いパリにどうしたらあまり不調和でなく新しいものをつくろうかと考えてみる人もいるらしく、これを表通りでやればあたりの景色はまるでこわれてしまうしそれではおもしろくないというのだろう。
日本の場合でこれに似たことを感じたのは京都の祇園あたりの通りで細い露路をはいっていくとまるで京都ばなれのした、パリ調やローマ調の喫茶店などがあるのだが、そこだけまるっきりちがっているのが却って一種のめずらしい値打ちがあり、表通りではないからトンチンカンにもならないというわけなのだ。
パリの人達はなんといってもパリの外観を観光的にこわすまいと注意し合っているから、ただきまぐれに思いがどうだろう。
故郷なのだヨーロッパは。つまり人間の故郷なのだろう。それだから具合がいいわけで、日本から行った人がなかなか帰りたがらない、一度行った者はまた行きたがる。これは故郷だからだと思うことにしたい。
ヨーロッパというところは人種的な差別をしない。黄色いのも、黒いのも、白いのも、いろいろまじっているけれども、それらが一緒に和合して、あるいは、お互いに邪魔をしないでうまく統一されている。
パリにいる日本の人とこの話をしてみたのだが、私もそう思うという人ばかりだった。来た日から昔からいるような気がするという。今日ゆっくり反省してみても、やっぱりそういうところがある。
アメリカでは、日本人が来たといって、向うも珍らしがって別扱いにするのだが、ヨーロッパではそういうところはなかった。それはいいのだがともかくこまるのは、日本へ帰って来ると外国へ来たような気がするというそのことだ。
短い言葉で表現することはむずかしいんだが、何か原因はあるにちがいない。日本人がヨーロッパの方を故郷に感じて、東京や大阪なんかを外国に感ずるということは、何かあるにちがいない。一応これはアメリカ的とか、植民地的とかいわねばなるまいが、そう簡単なものばかりでもなさそうだ。