カイロまで―日記より―
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ヨーロッパの旅
著:勅使河原蒼風
1900年生まれ。華道草月流の創始者。
1928年、第1回草月流展を開催し、軽快でモダンな花が評判となり、NHKラジオのいけばな講座を担当、この放送や以後の草月展を通じて草月流いけばなが広く知られるようになる。
華道において斬新な手法を多く提供し「花のピカソ」と呼ばれた。
ヨーロッパの旅
パリ
パン
洋食ぎらいのわたしはパリの御馳走はちっともありがたくない。
野菜を主にしていても魚が使ってあっても、洋食は洋食だから、きらいなものにはさびしくていけない。
やたらに出るブドウ酒にしても、まずいとはおもわないが、昼からのむのはどうも調子があわないし、やっぱり日本でこうばしい番茶とおこうこのある軽い食事がこいしくてたまらない。
しかしパンは実においしいので感心する。
よく日本で、あいつはパリでパンと水で生命をつないでいるんだよ、などとうわさを聞いたものだが、このパンならそんなにつらいものではないはずで、日本のパンでこの話を考えることは見当がはずれるわけだ。
わたしなど、ほかに御馳走がいろいろ出てくるのにだいたいパンばかりたべているし、それにくだものでもあれば、まあしんぼう出来るのである。
それにパンの形がばかに長いのがなんだかしゃれていて、霞がこれならいけられますねといったが、まるでこのごろいけばなでよく使う藤づるみたいな形にねじれてうねっている。