カイロまで―日記より―
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ヨーロッパの旅
著:勅使河原蒼風
1900年生まれ。華道草月流の創始者。
1928年、第1回草月流展を開催し、軽快でモダンな花が評判となり、NHKラジオのいけばな講座を担当、この放送や以後の草月展を通じて草月流いけばなが広く知られるようになる。
華道において斬新な手法を多く提供し「花のピカソ」と呼ばれた。
ヨーロッパの旅
パリ
エッフェル塔
エッフェル塔は高いというだけで、けっしていいデザインとはおもわないが、古風なパリにこれがあるのはいかにもよく似合っていて、もしこれがなかったらさびしかろうし、もっとデザインが芸術的だったりしたら、パリ全体を逆にこわすかも知れない。
だいたい日本の都会のはずれなどでよく見かける鉄製火の見やぐらのデザインと同じで、あれの超大型というところだろう。
遠くからはたいていのところから見えるからだんだん親しみは深くなって、何かたのもしい気持ちにさせられてくるのはやっぱり馬鹿に出来ないしろものという感じである。
いちどパリ見物の観光バスに乗ってみたが、コースのうちでいちばん呼びものでまたお客さんたちのよろこぶのがエッフェル塔らしい。
そばへいって脚もとに立って見ると塔というより裸の建ちかけの大ビルディングというところで、四つの脚のしめる広さにあきれるばかりで、わたしはここの中二階のレストランヘ歡迎会に招かれたが、そのレストランの広さなども塔の中というよりビルディングの中の食堂といった広さで、遠くから見るよりエッフェル塔がいかに大きいかという感じがずっとはっきりした。
ともかくデザイソ平々凡々たるエッフェル塔の形は、パリ風景のどこの場所に顔を見せてもよく似合っているし、見えなけれぱ物足りない。
パリではコルビジエが人気がないというが、コルビジエのデザインによる新エッフェル塔などというものが出来たとして、新鮮極まりない姿がそびえ立つとしたら、パリの風景はそこから御破算をねがわねばならなくなるだろう。
それをよく知ってぃるフランスがいつまでその糸口をつくらないように苦心をつづけるかなどというよけいなことをふと考えた。